Takeshi Ikemoto

医療 × 経営 × テクノロジー

·夜便 3本目·

サムスン電子、半導体価格上昇で営業利益が大幅増

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一言で言うと

サムスン電子はスマートフォンや家電でも知られる総合電機大手ですが、今回利益を大きく押し上げたのは半導体事業です。中でも、データを記憶するためのメモリ半導体の価格がAIデータセンター需要を背景に上がり、第1四半期の営業利益は前年比8倍超となる見通しです。

何が起きているのか

サムスン電子は、第1四半期の売上高が133兆ウォンとなり、前年同期の約79.1兆ウォンから68%増える見通しです。営業利益は57兆2000億ウォンで、前年同期の約6.7兆ウォンから8倍超に拡大する見通しです。営業利益率も、前年同期の約8%から今期は約43%へ大きく上がる計算で、市場予想も上回っています。

ここで用語を整理すると、`半導体` は大きな総称で、`チップ` はその半導体を指す日常的な言い方です。`メモリ` は半導体の一種で、データを一時保存したり記録したりする部品を指します。今回伸びたのは、この `メモリ半導体` の事業です。

会社全体で見ると、サムスン電子はスマートフォンや家電などの完成品事業と、半導体事業の両方を持っています。半導体事業の中にも、`メモリ`、`System LSI`(ロジック半導体の設計)、`Foundry`(外部企業向けの受託製造)の3分野があります。

また、サムスン電子はTSMCのような受託製造専業ではありません。自社で半導体を開発し、製造し、販売する事業を持つ一方で、外部向けの受託製造も行っています。つまり `設計だけの会社` でも `製造だけの会社` でもなく、両方を持つ会社です。そして今回利益急増の中心は、受託製造ではなく、自社で開発・製造して販売するメモリ半導体です。

事業分野ごとの詳細な売上高や利益率は本決算前なのでまだ正式には出ていませんが、ロイターが引用した証券会社の推計では、半導体部門の営業利益は54兆ウォンと全体の約95%を占める見通しです。一方、モバイル部門の営業利益は4兆ウォン程度で、前年同期比では小幅減とみられています。つまり、全社の数字だけを見ると総合電機メーカーの好決算に見えますが、実態としては半導体、とくにメモリ事業がほぼ利益を稼いだ四半期だと理解するのが適切です。

では、何が売れて利益が伸びたのか。記事によると、生成AIの普及でAIデータセンター向け投資が増えた結果、サーバーや関連機器に使うメモリ半導体の需給が逼迫し、価格が急騰しました。第1四半期だけで半導体価格はほぼ2倍に上がり、DRAMの契約価格も今四半期に50%超上昇するとの予想が出ています。

さらに重要なのは、今回の利益増は、最先端のHBMが急伸したからというより、サムスンが大きな供給力を持つDRAMやNANDの価格上昇が効いた点です。DRAMは主に一時的な作業用メモリ、NANDは保存用メモリです。どちらもメモリ半導体に含まれます。ロイター記事でも、第1四半期の半導体売上に占めるHBMの比率はわずか5%にとどまり、大半は従来型メモリだったとされています。加えて、ウォン安によって海外利益を本国通貨に換算した際の押し上げ効果もありました。

AI業界の文脈では

このニュースが示しているのは、AIブームの恩恵がNVIDIAのようにAI向け半導体を設計する企業だけに集中しているわけではないことです。大規模なAIモデルの学習や推論には、グラフィックス処理装置(GPU: Graphics Processing Unit)だけでなく、大量のデータを受け渡しするメモリも欠かせません。そのため、AI投資が増えると、最先端のHBMだけでなく、DRAMやNANDのような既存メモリの市況まで押し上げられます。

今回のサムスンの決算は、`AIの勝ち筋は最先端チップだけではない` ことを示しています。HBMで出遅れがあっても、量産能力の大きいメモリ大手は、市況上昇そのものから大きな利益を得られる。つまり、AIの恩恵は技術競争の勝者だけでなく、供給網の中で規模を持つ企業にも広がっています。

私の見立て

今回のポイントは、`サムスンだから利益が膨らんだ理由` が比較的はっきりしていることです。サムスンは世界有数のメモリメーカーで、DRAMやNANDを大規模に供給できます。AIブームでメモリ価格が一気に上がる局面では、こうした量産力を持つ企業ほど利益が出やすくなります。

一方で、これは `半導体企業ならどこでも同じように伸びる` という話ではありません。ロイター記事でも、サムスンはHBMでは競合のSKハイニックスに後れを取っていたとされています。それでも今回は、HBM以外の汎用メモリ価格の上昇と為替の追い風で大きく伸びました。つまり、AI相場の恩恵は一律ではなく、どの製品群を持っているか、どの価格上昇に乗れたかで差が出ます。

この視点で見ると、今後のAI市場では、OpenAIAnthropicのようにAIモデルそのものを開発する企業だけでなく、メモリ、材料、製造装置などを担う周辺企業の利益構造も追う必要があります。AIを使う企業にとっては、性能競争だけでなく、計算資源とメモリの調達コスト管理がますます重要になります。

→ 何が変わるか: AI市場の勝ち筋は、`良いモデルを作れるか` だけではなく、`必要な計算資源と部材を安定して確保できるか` に広がります。今後は、OpenAIAnthropicのようなAIモデル開発企業だけでなく、メモリや材料を供給する企業の価格決定力と供給力が、業界全体の収益構造を左右しやすくなります。言い換えると、AI競争はソフトウェアの競争であると同時に、サプライチェーンを押さえた企業が優位に立つ競争になっていきます。

→ 何をすべきか: AI関連事業を進める企業は、`GPUを確保できるか` だけでなく、メモリ価格、長期契約の有無、代替調達先まで含めて調達戦略を組むべきです。経営陣や投資家は、AI企業を評価するときも、モデル性能や利用者数だけでなく、計算資源コストをどこまで吸収できるか、価格上昇を顧客に転嫁できるかまで見る必要があります。