Takeshi Ikemoto

医療 × 経営 × テクノロジー

·朝便 2本目·

AIチップ製造の鍵を握るTSMC、競合を凌駕する成長の秘密

TSMC半導体ファウンドリAIチップ製造

一言で言うと

台湾積体電路製造(TSMC: Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は2025年に、他の半導体受託製造企業(ファウンドリ)をはるかに上回る成長を遂げました。その背景には、最先端技術への集中、ウェハー価格の上昇、そして先進パッケージングへの垂直統合という3つの圧倒的な優位性があります。

何が起きているのか

Counterpoint Researchの調査によると、2025年の世界の半導体ファウンドリ市場は過去最高の3200億ドル規模に達し、前年比16%の成長を記録しました。この中で、TSMCは市場全体の38%を占め、前年比36%という驚異的な成長を達成しています。一方、TSMC以外のファウンドリは合計で8%の成長に留まりました。

この圧倒的な差を生み出した要因として、元記事は以下の3点を挙げています。

1. 最先端ノードへの集中: TSMCの収益は、AIや高性能コンピューティング(HPC: High-Performance Computing)に不可欠な7ナノメートル(nm)以下の先進プロセス技術に大きく傾倒しています。ここでいう `ノード` は、どれだけ細かい回路を作れるかを示す製造技術の世代のことです。数字が小さいほど高性能・省電力のチップを作りやすくなります。2025年第4四半期には、3nmと5nmのプロセスがウェハー収益の74%を占めました。これは、NvidiaBlackwell GPUAMDZen 5 EPYCプロセッサAppleMシリーズチップといった最先端製品の基盤となっています。 2. ウェハー価格の上昇: TSMCの収益成長は、出荷量の増加だけでなく、平均販売価格(ASP: Average Selling Price)の上昇によっても加速されています。これは、AI向け先端チップの需要が急増する一方で、同じ水準で量産できる競合が少なく、TSMCが価格を上げやすい立場にあるためです。2019年から2025年にかけて、ウェハーのASPは年率約15.9%で増加し、2025年だけでもウェハーあたりの粗利益は約3.3倍に拡大しました。 3. 先進パッケージングへの垂直統合: TSMCは、AIチップ向けに重要な先進パッケージング技術であるCoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)の生産能力を大幅に拡大しています。CoWoSは、計算用チップと高帯域メモリをすぐ近くにまとめて載せ、高速にやり取りできるようにする実装技術です。AIでは、大量のデータをチップとメモリの間で素早く動かせないと性能が出にくいため、この工程が重要になります。2024年末の月間約35,000枚から、2025年末には約80,000枚へと倍増させました。これにより、TSMCはウェハー製造だけでなく、後工程のパッケージングでも収益を確保し、顧客のスイッチングコスト(他社への切り替え費用)を高めています。

競合他社であるSamsungは3nmプロセスの歩留まり(良品率)が30〜40%台と低迷し、Intel Foundryも18Aプロセスの歩留まりが業界標準レベルに達するのは2027年と見込まれています。中国のSMICなどは成長しているものの、その多くは成熟ノードによるもので、最先端分野ではTSMCに匹敵する企業は現れていません。

AI業界の文脈では

AI技術の進化は、高性能な半導体チップ、特にグラフィックス処理装置(GPU: Graphics Processing Unit)の供給に大きく依存しています。NvidiaなどのAIチップ設計企業は、その製造をTSMCに委託しており、TSMCの生産能力がAI産業全体の成長速度を左右するボトルネックとなっています。

TSMCの圧倒的な技術的優位性と生産能力の寡占は、AI開発競争において、チップの入手可能性とコストに直接的な影響を与えます。これは、AI技術を開発する企業だけでなく、AIを導入しようとするあらゆる産業にとって、サプライチェーンのリスク管理上、極めて重要な課題です。

また、TSMCが台湾に拠点を置いていることから、地政学的なリスクも常に意識されています。世界中の国々が半導体サプライチェーンの強靭化を目指し、自国内での製造能力確保に巨額の投資を行っていますが、TSMCの技術的リードと規模を短期間で追いつくことは困難な状況です。

私の見立て

AIの進化が加速する現代において、TSMCの技術的優位性は、単なる一企業の成功物語を超え、世界のAI産業の未来を形作る決定的な要素となっています。最先端半導体の供給がAI開発の生命線である以上、TSMCの動向は、あらゆる企業にとって戦略的な重要性を持ちます。

この状況は、AIを活用する企業にとって、サプライチェーンの多様化やリスク分散の重要性を改めて浮き彫りにします。特定のベンダーや技術への過度な依存は、予期せぬ供給制約やコスト上昇に直結する可能性があるため、長期的な視点での戦略が必要です。

したがって、経営層は、AI技術の導入計画を立てる際に、その基盤となる半導体サプライチェーンの安定性や、将来的な技術動向を深く理解し、自社のAI戦略に組み込むべきです。TSMCの寡占状態は、今後数年間は続くと見られ、この現実を前提とした事業計画が求められます。

→ 何が変わるか: AI競争は、モデルの出来だけでなく、誰が先に必要な計算資源を確保できるか、そしてそのコストを吸収しながら事業を回せるかで差がつくようになります。今後は、半導体へのアクセスそのものが製品投入の速さや利益率を左右しやすくなります。

→ 何をすべきか: AIを事業の中核に据える企業は、調達リスクを見るだけでなく、「どの機能に本当に最先端チップが必要か」を切り分けるべきです。高価な計算資源が必要な領域と、より安価な構成で足りる領域を分けて設計しないと、供給制約とコスト上昇の両方に振り回されやすくなります。