Takeshi Ikemoto

医療 × 経営 × テクノロジー

·朝便 2本目·

Rocketは戦略検討の前工程をAIで切り崩す

RocketMcKinsey戦略策定製品戦略

一言で言うと

インドのスタートアップRocketが、McKinseyのようなコンサルティングレポートに近い体裁の製品戦略文書を、AIで低コストに作るプラットフォーム「Rocket 1.0」を立ち上げました。ただし、その質が本当に大手コンサル並みかどうかは、利用側の検証が前提です。

何が起きているのか

Rocketは、製品戦略づくりを支援する「Rocket 1.0」を公開し、月額25ドルから使える料金体系を打ち出しました。リサーチ、競合調査、製品企画を一つの流れにまとめ、価格設定や市場投入戦略まで含む文書を自動生成するのが特徴です。

Rocketの共同創業者兼CEOであるVishal Virani氏は、「誰もがコードを生成できるようになった今、何を作るべきかという点が欠けている」と指摘しています。AIによるコーディングツールが普及し、コードを書くことは容易になった一方で、ビジネスを成功させるための「何を構築するか」という戦略策定の重要性が増しているという認識です。

TechCrunchRocketのプラットフォームを試したところ、簡単なプロンプトからPDF形式の製品要件ドキュメントが生成され、これはチャットボットやコーディングツールとは異なり、コンサルティングレポートのような形式でした。ただし、分析の一部は既存データ(既知の価格モデル、ユーザー行動パターン、競合インサイト)の合成であり、独立して検証可能な情報に基づいているわけではないため、ユーザーはビジネス上の意思決定を行う前に出力を検証する必要があるとしています。Rocketは、ユーザーが問題に直面した際には人間によるサポートも提供すると述べています。

このプラットフォームは、Metaの広告ライブラリ、Similarwebのアプリケーションプログラミングインターフェース(API: Application Programming Interface)、独自のクローラーなど、1,000以上のデータソースを活用して競合他社のウェブサイト変更やトラフィック動向も追跡できます。

Rocketのサブスクリプションプランは月額25ドルからで、戦略・リサーチ機能を含むプランは250ドル、競合インテリジェンスを含むフルプラットフォームは350ドルです。Virani氏は、250ドルのプランで「McKinsey級」のリサーチレポートを2〜3件生成できると主張していますが、TechCrunchは一方で、出力の一部は既存データの合成であり、独立して検証可能な情報に基づくとは限らないとも指摘しています。

Rocketは昨年9月にAccelSalesforce VenturesTogether Fundから1,500万ドルのシードラウンドを調達し、ユーザー数は40万人から150万人以上に成長しています。年間平均ユーザー収益(ARPU: Average Revenue Per User)は4,000ドルに達し、顧客の20〜30%が中小企業です。

AI業界の文脈では

このニュースの本質は、AIがコンサルティング会社そのものを置き換え始めたというより、`戦略のたたき台をつくる工程` を安く速くする方向に入り始めたことです。市場調査、競合整理、価格仮説づくりのような前工程はAIで圧縮しやすい一方、最終判断や実行設計まではまだ埋まりません。

その意味で、Rocketのようなサービスが崩しているのは、McKinsey級の助言そのものというより、これまで高いお金を払わないと手に入りにくかった `それっぽい戦略資料を短時間で作る機能` です。経営層が本当に買っているのは最終的な示唆や実行支援ですが、その手前にある情報整理や初期仮説づくりは、AIに置き換わりやすくなっています。

一方で、品質の証明はまだ弱いです。元記事ではTechCrunchが短時間の試用をしただけで、McKinsey級という評価は主に創業者側の主張です。利用者数の増加や料金プランは示されていますが、誰もが知る大企業の正式導入事例や、経営判断でどれだけ成果が出たかは十分には確認できません。自社や投資家の発信には `Fortune 100 が試験導入中` という記述もありますが、現時点では本格採用の裏付けとしてはまだ弱いと言えます。

私の見立て

私の見立てでは、これは `コンサルの代替` というより `戦略検討の初期工程の自動化` と捉えるのが正確です。情報収集、競合比較、価格仮説、資料化まではAIがかなり肩代わりできますが、どの選択肢に賭けるか、社内をどう動かすか、実行して修正するかという肝心な部分はなお人間の仕事です。

だから、現時点で最も恩恵を受けやすいのは、大手コンサルに何百万も払えない中小企業やスタートアップです。逆に言えば、顧客の20〜30%が中小企業という事実は、このサービスがまず `安く早く考えるための道具` として受け入れられていることを示しており、名だたる大企業の中核業務に深く入り込んだことを意味するわけではありません。

重要なのは、経営の価値は `きれいなレポート` ではなく `実行して結果を出すこと` にある点です。AIが資料をつくれても、顧客理解、社内調整、現場実装、仮説修正までは埋まりません。したがって企業は、AIを思考の代替ではなく、たたき台を安く速く作る補助装置として使い、その先の判断と実行に人の時間を振り向けるべきです。

→ 何が変わるか: 戦略立案の価値は、資料を作ることから、何を捨て何に賭けるかを決めて実行することへ、さらに比重が移ります。資料作成や初期分析そのものは、今後ますます安くなっていきます。

→ 何をすべきか: 企業は、AI戦略ツールを `答えを出す機械` としてではなく、仮説整理と論点出しの道具として使うべきです。そのうえで、顧客理解、優先順位づけ、実行計画、検証の責任を担う人間の体制をむしろ厚くする必要があります。