一言で言うと
大事なのは、AI半導体の競争が、計算用チップそのものだけでなく、それをHBM(AI向けの高速メモリ)と一体で組み上げる実装技術でも決まるようになっていることです。Intelは、その要となる先進パッケージング技術「EMIB-T」を年内量産へ進め、TSMC依存の強い供給構造に割って入ろうとしています。
何が起きているのか
Intelの最高財務責任者(CFO: Chief Financial Officer)であるDave Zinsner氏は、先進パッケージングだけで年間数十億ドル規模の契約締結が近いと発言しました。背景にあるのは、TSMCのCoWoS-L(CoWoSの次世代版)を含む先進パッケージ供給が逼迫していることです。
ここでいうAIアクセラレータとは、AIの学習や推論を高速に処理するための専用半導体です。いまの高性能品は、計算チップだけでは成り立ちません。AIでは大量のデータを絶えず読み書きするため、計算用のダイのすぐ近くにHBMのような高速メモリを置く必要があります。先進パッケージングは、そのチップとメモリをひとつの高性能部品として組み上げる技術です。
EMIB-Tは、その中でもチップ同士やメモリをつなぐ接続部分を支える技術です。Intelはこれを今年中に量産開始(`fab rollout`)する予定で、標準的なEMIBよりも、より大きく、より電力を使うAIアクセラレータ向けに強化しています。狙いは、HBM4級の電力供給や大規模パッケージへの対応です。
記事では、EMIB-TがブリッジダイにTSV(`through silicon vias`: シリコン貫通電極)を加えるなどして、電力供給や信号分離を改善すると説明されています。これにより、HBM3から将来のHBM5まで支えられる設計を目指しています。要するに、より巨大なAIアクセラレータを安定して組み立てるための土台をIntelが用意しようとしているわけです。
コスト面では、EMIBパッケージングはチップあたり数百ドルと見積もられており、CoWoSの900〜1,000ドルと比較して大幅に安価であるとされています。また、ブリッジダイのウェハー利用率もEMIBが約90%であるのに対し、大型インターポーザーでは約60%です。
TSMCはCoWoSの生産能力を積極的に拡大していますが、Nvidiaが2025年と2026年の総CoWoS容量の60%以上を確保するなど、需要が供給を大幅に上回っています。Googleが2026年のTPU目標を100万ユニット削減したのも、割り当て制限が原因と報じられています。
MediaTekやAmazon(AWSのTrainiumクラスカスタムAIプロセッサ向け)がEMIB-Tに関心を示していると報じられていますが、Intelからの公式確認はありません。すでにNvidia、Microsoft、Googleとも接点はあるものの、外部顧客向けにどこまで広がるかはまだ流動的です。
EMIB-Tを最初に採用するIntel製品は、Falcon Shoresの後継となるAIアクセラレータ「Jaguar Shores」である可能性が高いとされています。ただし、EMIB-Tの外部顧客向け生産は「1〜2年後」になると見込まれています。
AI業界の文脈では
TSMCのCoWoSは事実上の業界標準になっており、Nvidiaが2025〜2026年のCoWoS容量の60%以上を確保している状況は、他の設計企業にとって深刻な供給制約です。Googleが2026年のTPU目標を100万ユニット削減したのも、この割り当て制限が原因とされており、先進パッケージングの不足がAIチップ開発全体の速度を左右していることが分かります。
つまり今のボトルネックは、`優れたチップを設計できるか` だけではありません。`そのチップを高性能メモリ込みで、量産可能な形に組み上げられるか` です。IntelのEMIB-Tは、この詰まりやすい工程に別の選択肢を持ち込もうとする動きであり、AI半導体サプライチェーンの多様化につながる可能性があります。
私の見立て
大事なのは、AI半導体で本当に足りていないのは設計のアイデアだけではなく、それを製品として組み上げて量産につなげる実装能力だということです。
EMIB-Tは、その不足を埋める候補として重要です。もしTSMCのCoWoS以外に有力な選択肢が育てば、AIチップ企業は供給不足やコスト高に振り回されにくくなります。Intelにとっても、ファウンドリ事業を立て直すための大きな勝負どころです。
ただし、外部顧客向け本番生産は「1〜2年後」と見込まれており、いますぐ使える切り札ではありません。確定的な顧客もJaguar Shores(自社製品)にとどまり、MediaTekやAmazonについては公式確認がない状況です。企業が調達戦略を考えるなら、EMIB-Tを近い将来の確実な前提とみなすのではなく、2027〜2028年を視野に入れた複数ファウンドリへの分散と、TSMC割り当ての早期確保を並行して進めるのが現実的です。
→ 何が変わるか: AIアクセラレータのサプライチェーンにおいて、先進パッケージングの選択肢が増え、特定のベンダーへの依存度が低下する可能性があります。
→ 何をすべきか: AIアクセラレータを開発・調達する企業は、TSMCのCoWoSだけでなく、IntelのEMIB-Tのような代替技術の動向を注視し、将来的な調達戦略に多様性を持たせるべきです。