Takeshi Ikemoto

医療 × 経営 × テクノロジー

·夜便 3本目·

AdobeのAIエージェント基盤発表が示す、既存ソフト会社の事業モデル転換

AdobeCXEnterpriseAIエージェント事業モデル転換

AdobeのAIエージェント基盤発表は、生成AIが既存ソフトの追加機能ではなく、既存ソフト会社の事業モデルそのものを揺らし始めた動きです

一言で言うと

今回の本質は、Adobeが `Photoshopのような道具にAI機能を足す` 段階を超えて、企業のマーケティングや顧客対応の仕事そのものをAIエージェントに回させる土台を出してきたことです。つまり、ソフトを操作するための会社から、仕事の流れそのものを押さえる会社へ踏み出そうとしています。

何が起きているのか

Adobeは、年次イベントで企業向けのAIエージェント基盤 CX Enterprise を発表しました。これは新しい制作ソフトというより、企業のマーケティング部門や顧客対応部門が使う裏側の業務基盤です。

取りまとめ役のエージェント CX Enterprise Coworker が置かれ、複数のエージェントを動かしながら、関連データを集め、マーケティング計画を立て、その実行まで進める設計です。

元記事の機能を読者向けに言い換えるとこうです。たとえば、企業が新商品の販促を打ちたいとき、AIが過去の顧客データや反応を見て施策案を作り、必要なコンテンツ制作の流れを動かし、配信や顧客接点の調整まで一つの流れで支えるイメージです。人が1つずつソフトを開いて作業する前に、AIが業務の段取り役になる仕組みだと考えると分かりやすいです。

同時に、Amazonのクラウド部門(AWS)、MicrosoftAnthropicOpenAINvidiaなど30社超との連携も発表されました。顧客は、1社のAIだけに閉じず、複数のAI基盤をまたいでエージェントを業務に組み込めるようになります。

背景には、AIが最初から前提になっている新興企業からの圧力があります。元記事によると、AI関連の動きでソフトウェア銘柄の時価総額は大きく削られてきました。Adobeの株価も年初来で約30%下落しています。さらに、18年間CEOを務めたShantanu Narayen氏が退任し、後任を探している状況だと報じられています。

AI業界の文脈では

通説は「既存のソフト大手はAIネイティブ企業に押されていく」「Adobeのような大手は守りに回るしかない」というものです。この見方は、既存企業の動きが遅く、事業モデルを変えにくいという前提に立っています。

ただ、今回の発表は、その前提とは違う方向への動きです。既存製品にAI機能を足すのではなく、エージェントが業務を回す前提の基盤そのものを自社で持とうとしています。

ここにある本質は、`道具を売る` だけでは弱くなってきた、ということです。もしAIがマーケティング施策の立案から実行まで回してしまうなら、顧客は個々のソフトの細かな機能より、最終的にどこまで仕事が進むかを重視するようになります。

もう一つ押さえるべきは、顧客側の買い方が変わり始めていることです。従来はソフトウェアを買い、その後は人が操作して成果を出していました。エージェント時代には、成果に近いところまで仕事を進めてくれる仕組みを買う方向へ動きます。Adobeが30社超と連携したのも、単体の製品ではなく、複数のAI基盤を束ねて企業の業務フロー全体に入り込みたいからだと読むと意味が通ります。

私の見立て

株価30%下落とCEO交代という情報は、Adobeの今回の動きが余裕からの攻めではなく、危機感からの踏み込みであることを示しています。ここで本当に効いているのは、事業モデルの核そのものの置き換え圧力です。`良いソフトを作れば売れる` だけでは足りず、`顧客の仕事をどこまで回せるか` が問われ始めています。

だからAdobeは、Photoshopのような制作ツールを良くするだけではなく、企業のマーケティング部門そのものの仕事の流れに入り込もうとしています。もし顧客が `広告素材を作るソフト` ではなく、`見込み客への働きかけを回してくれる仕組み` を求め始めたら、ソフト会社は道具の売り手のままでは不利になります。この転換がどれくらいの速度で進むかは読みにくいですが、大手がそこまで踏み込み始めた意味は大きいです。

ただし、この読みが外れる可能性もあります。もし企業側が、AIエージェントに業務を任せる範囲を今後も慎重に絞るなら、既存のソフトウェア販売モデルはしばらく共存できます。その場合、Adobeの今回の投資は成果が出るまで時間を要するはずです。

→ 何が変わるか: 既存のソフトウェア大手は、機能追加ではなく事業モデルそのものをAIエージェント側に寄せ始めます。顧客企業の購買も、`ソフトを買う` から `仕事をどこまで任せられるかで選ぶ` 方向へ少しずつ移っていきます。

→ 何をすべきか: 企業は、自社が契約しているソフトを `人が道具として使う部分` と `成果だけ出してくれればよい部分` に分けて見直すと、AIエージェントに置き換わりやすい領域が見えやすくなります。ソフト提供側にとっては、自社製品の機能を磨くだけでなく、顧客の仕事の流れ全体のどこを押さえにいくかを考える段階に入ったと言えます。