Takeshi Ikemoto

医療 × 経営 × テクノロジー

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Isomorphic Labsの21億ドル調達は、AI創薬企業が自社で薬を作る方向にも踏み出した事例です

IsomorphicLabsAI創薬医薬品開発大型調達

Alphabet傘下のIsomorphic Labsは、21億ドルのシリーズBを調達し、自社AI創薬プラットフォームIsoDDEの拡張と、自前の医薬品候補を臨床試験まで進める方向に資金を投じます。少なくとも同社は、製薬会社に技術を売るだけでなく、自分で薬を作る側にも踏み出しています。

一言で言うと

今回の発表の中心は、AI創薬企業がまた大型調達をしたという話ではありません。Isomorphic Labsが、自社のAIプラットフォームを使って、自前の医薬品候補を臨床試験まで進める覚悟を、21億ドルという金額で示したという話です。

何が起きているのか

Isomorphic Labsは、21億ドルのシリーズB調達を完了しました。リード投資家はThrive Capitalで、参加投資家としてAlphabetGVMGXTemasekCapitalGUK Sovereign AI Fundが並んでいます。

調達した資金の使い道は3つに整理されています。1つ目は、自社AI創薬プラットフォームIsoDDEの拡張です。IsoDDEは、複数の独自AIモデルを組み合わせ、異なる治療領域や薬剤クラスに対応する設計になっています。

2つ目は、自社で持つ医薬品候補のパイプラインを、臨床試験に近づけることです。AIで化合物を予測するだけでなく、その候補を実際にヒトに投与する段階まで進める方針を、今回の発表で明示しています。

3つ目は、グローバルでの採用です。AI研究者だけでなく、臨床開発や規制対応を担える人材が必要になります。

Demis Hassabis氏は、「基盤的なアプローチは実証済みで、次の焦点は技術のスケール」と説明しています。「全ての疾患を解決する」という長期ミッションも改めて掲げました。

Isomorphic Labsは2021年にロンドンで設立されました。すでにNovartisEli LillyJohnson & Johnsonとパートナーシップを結んでいます。

AI業界の文脈では

AI創薬という言葉は、ここ数年で何度も話題になってきました。ただし、これまでの主流は、AIで候補化合物を予測する技術を製薬会社にライセンス提供するか、共同研究のかたちで個別案件を回す形でした。AIスタートアップ側は「技術屋」、製薬会社側は「薬を作って売る事業者」という分業が前提にありました。

Isomorphic Labsは、この分業とは少し違う動きを見せています。製薬大手3社とのパートナーシップは続けつつ、自社で開発した医薬品候補を、自分たちで臨床試験まで進める方針を取っているからです。21億ドルという金額は、外部に技術を売るだけの会社というより、自分で薬を世に出すところまで視野に入れた事業の運転資金に見えます。

Hassabis氏が「アプローチは実証済み」と言い切ったのは、おそらくDeepMindが積み上げてきたAlphaFold系の構造予測技術と、その後の薬剤候補設計の蓄積を指しています。少なくとも同社は、予測技術の段階から、実際の医薬品候補を臨床に近づける段階へ進もうとしていると読めます。

私の見立て

今回の調達で見えているのは、Isomorphic Labsの事業モデルが一段進む可能性です。

21億ドルの使い道のうち、特に重い意味を持つのは「自社パイプラインを臨床試験に進める」部分です。臨床試験のフェーズに入ると、AIで化合物を予測するだけでは済みません。ヒトに投与したときに安全か、有効性の手がかりが出るかを確認する必要があります。失敗確率は高くなり、規制当局との対話も前面に出てきます。これを自社でやる選択は、Isomorphic LabsがAIの精度を示す会社から、薬の結果にも関わる会社へ進もうとしているという意味です。

このとき、既存の製薬大手から見ると、Isomorphic Labsは単なる技術パートナーではなくなります。NovartisEli LillyJohnson & Johnsonは同社と提携していますが、相手が同じ治療領域で自社の医薬品候補を臨床に進めれば、その時点で隣接領域の競合になり得ます。少なくとも同社については、AI創薬企業を外注先としてだけ見るのは難しくなります。

逆に、AIモデルの精度を前面に出してきた他のAI創薬スタートアップにとっては、価値の示し方を考え直すきっかけになります。Isomorphic Labsのように臨床まで自社で進める覚悟と資金を持つ会社が出てくると、「精度の高い予測モデルを売る」だけでは、違いを説明しにくくなる場面が増えるからです。

ただし、この読みが外れる経路もあります。臨床試験は、AIの精度と関係なく、被験者の安全管理や治験デザインで止まることがよくあります。臨床まで進めると言っても、最初の数件で失敗が続けば、投資家の期待は急速に冷えます。IsoDDEが異なる治療領域で本当に機能するかも、今後の臨床データ次第です。今後12〜24か月で、Isomorphic Labsがどの疾患領域で臨床試験入りを発表できるか、そしてその初期データがどう出るかが見極めどころです。

→ 何が変わるか: Isomorphic Labsを見るうえでは、「どのモデルが化合物予測で精度が高いか」だけでなく、「自社の薬を臨床まで進めて、結果を出せるか」も重要になります。AIスタートアップと製薬会社の関係も、少なくとも一部では、外注と発注だけでなく、提携しながら競合にもなり得る関係として見た方がよさそうです。

→ 何をすべきか: 製薬・ヘルスケア業界の関係者は、AI創薬パートナーを「技術ベンダー」としてだけ見てよいのかを確認した方がよいです。技術提携の契約では、相手が同じ治療領域で自社パイプラインを持つ場合の扱いを考えておく価値があります。投資家やヘルスケアを観察する立場の方は、AI創薬企業を見るときに、論文や予測精度だけでなく、自社パイプラインをどこまで臨床に近づけているかも確認すると、事業としての本気度が見えやすくなります。

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