一言で言うと
中国が H200 を買わないのは、性能で代替できる国産チップが育ってきたからだけではありません。米国が決めた「1 枚ごとに売上の 25% を米財務省へ納める」枠組みが、長期の米国依存に映るため、規制緩和そのものを使わない選択をしました。
何が起きているのか
ドナルド・トランプ氏は、習近平氏との 2 日間の首脳会談を終えた直後に、大統領専用機(Air Force One)で記者団に語りました。中国政府は、約 10 社の中国企業による Nvidia の H200 AI チップ購入を許可していません。理由は「自国で開発したい」からだと説明しています。Bloomberg が報じました。
その前日には、米商務省が Alibaba・Tencent・ByteDance・JD.com を含む約 10 社に H200 の購入を承認した、と報道されていました。販売パートナーの Lenovo と Foxconn も承認を受けています。ただし H200 は 1 枚も出荷されていません。
米国側の輸出枠組みは 1 月に正式化されています。H200 は中国へ再輸出される前に、米国領土を通過し第三者検査を受けます。さらに Nvidia は売上ごとに 25% の手数料を米財務省へ納める必要があります。
しかし、中国政府が国内企業に発注を許さなければ、この枠組みは動きません。今年早くに Nvidia へ注文を出していた中国企業も、後から「履行できない」と通告しています。
商務長官の ハワード・ルトニック氏は先月、中国が Huawei のような国内チップメーカーへ投資を誘導するために輸入を遮断している、と同じ見方を示しました。米通商代表の ジェイミソン・グリア氏も「H200 購入の進展は今や中国次第」と述べています。
Nvidia の年間売上ガイダンス 780 億ドルは、中国からの回復をゼロと見ています。アナリストの試算では、枠組みが機能すれば年間 35 億〜40 億ドルが中国市場から戻ってくる可能性があります。同社の中国市場シェアは約 95% からほぼゼロまで落ちている、と CEO の ジェンスン・フアン氏は説明しています。
ジェンスン・フアン氏は当初の随行団に入っていませんでしたが、直前で追加され、Alaska での給油中に大統領専用機に乗り込みました。H200 販売の大きな進展が期待されましたが、首脳会談後の発言からは膠着が続いている様子です。
AI業界の文脈では
このニュースを見て最初に出てきそうな見方は、「米国の対中チップ規制が功を奏した」「中国の AI 開発が遅れる」のふたつです。ただ、どちらも前提を確認すると揺らぎます。
ひとつめの前提は「米国が止めない限り、中国は最先端チップを買いたいはずだ」というものです。今回はこの前提が外れています。買えるようになったのに買わない選択は、規制側ではなく中国側に主導権が移ったことを示しています。
ふたつめの前提は「最先端チップなしでは AI 競争で勝てない」というものです。中国国産チップは、1 枚あたりの効率では Nvidia 製に劣ります。ただし中国は電力供給を速いペースで増やしてきました。1 枚の性能差は、電力と台数を増やす設計で埋められる範囲に入っています。
つまり「規制緩和なら米国の勝ち」という単純な構図は、もう成り立っていません。
私の見立て
規制を緩めれば中国が買う、という前提を米国はすでに失っています。今回の真の壁は性能ではなく、米国側が課した課金構造そのものです。H200 1 枚ごとに、売上の 25% は米財務省へ納める仕組みです。中国側から見れば、これは Nvidia を経由して米国へ税を払い続ける構造です。短期の性能差を理由に H200 を買えば、その税は長期にわたって積み上がります。
ここで効いているのは経済とインセンティブのふたつです。経済の面では、Huawei 等の国産チップへ流すべき投資が、対米支払いに吸われます。インセンティブの面では、中国政府にとって自国チップを育てる選択は、政治と産業の両方で得点になります。米国に依存しない姿勢が政治的な勝利になり、国内チップメーカーには確定需要が約束されるからです。
加えて Nvidia 側の打撃も無視できません。中国市場シェアは約 95% からほぼゼロへ落ち、年間で 35 億〜40 億ドルの売上機会が宙に浮いた状態です。米国側にとっても、機能しない枠組みは 25% の財源を取りこぼし続けます。
ただし、この読みが外れる条件もあります。Huawei 等の国産チップが想定より遅れれば、中国も妥協して H200 を買う可能性があります。米中合意で 25% 手数料が撤廃されれば、中国側の購入動機は復活します。
→ 何が変わるか: 中国市場での AI チップ売上を前提にした投資計画や需給予測は、当面そのまま使えなくなります。Huawei を中心とする中国国産チップの生態系は、確定需要を背景に投資が加速する見通しです。米国の AI 企業も、distillation(中国が米国モデルの出力を抽出し、安く似たモデルを訓練する手法)への対策を並行で強める動きを進めています。
→ 何をすべきか: 中国向けに AI 製品を売る企業は、Nvidia 系の最適化前提を見直し、国産チップ向けの動作検証を計画に入れる必要があります。米中半導体動向を投資判断に組み込む人は、Nvidia の中国売上回復シナリオを割り引いた評価に切り替えるのが妥当です。個人で AI ツールを使う方にも遠回しに影響があります。中国製モデルが国産チップで最適化されれば、選べる選択肢の幅が広がる方向に動きます。